「2型糖尿病を伴う心不全患者の微量アルブミン尿に対するダパグリフロジンの予防・抑制効果に関する臨床試験(DAPPER試験)」(DAPagliflozin for the attenuation of albuminuria in Patients with hEaRt failure and type 2 diabetes (DAPPER study): open-label, parallel-group, standard treatment-controlled trial)という論文が2023年11月27日、The Lancetの姉妹紙であるeClinicalMedicine(IF:17.033、H-Index:63)にonlineとして掲載されました。この試験は、錦秀会・阪和記念病院の北風政史医師が主任研究者を務めた大規模臨床研究(DAPPER試験)となづけられており、本研究により、2型糖尿病を伴う慢性心不全患者において5㎎を中心としたダパグリフロジン投与が心血管イベントを抑制することが明らかとなりました。本研究の成果は、世界で初めてのことであり、2型糖尿病を伴う慢性心不全患者の治療戦略を考える上で貴重な根拠のひとつとなると考えられ、大きく臨床医学に貢献するものと期待されます。
背景
糖尿病は、心血管疾患のみならず腎臓病を引き起こすことがよく知られています。SGLT2阻害薬であるダパグリフロジンは、糖尿病治療薬として最近上市され、このダパグリフロジンが糖尿病のみならず、心不全や腎不全を改善することが示されてきましたが、糖尿病を有する心不全患者さんに対して、ダパグリフロジンを使用した時に腎機能障害が改善するかどうかは明らかでありませんでした。
研究の概要
そこで、2型糖尿病を伴う慢性心不全の症例で書面同意がとれた299名に対して、ダパグリフロジン投与量を5㎎から開始し10㎎まで増量可能とし尿中アルブミン排泄量を抑制するか否か、さらに心血管イベントをも抑制できるか否かについて、多施設共同、無作為化、非盲検、標準治療対照、並行群間比較として実施し、2年間経過観察しました。心不全ではダパグリフロジンを10mg投与しますが、本試験は糖尿病+心不全の症例を対象としているため、ダパグリフロジンは5mg/10mgのどちらを投与しても可といたしました。
その結果、2年間の観察期間終了時のダパグリフロジン群において87.7%の患者で5㎎が投与されており、主要評価項目の尿中アルブミン排泄量に2群間に有意差を認めませんでしたが、副次評価項目の心血管イベントは標準治療群に比べてダパグリフロジン群で抑制されていました(図1,2参照)。
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展望
本試験の結果より、心不全を有する糖尿病患者さんに対して、糖尿病治療薬であるダパグリフロジンが、心不全増悪を抑制し、心血管疾患による入院および死亡を抑制することが示されました。こんごのこの分野の治療に大きな影響を与えるものと期待されます。